• コラム

2025.12.11

ネット回線・通信が強い注文住宅を作る!光引込,弱電盤,有線LAN,Wi-Fi設計を徹底解説

完成してから「電波が弱い」「配線が届かない」を直すのは高コストです。ネット回線は、建物の引込ルート・機器の置き場・屋内配線・Wi-Fiレイアウトが一体で設計されて初めて“速くて安定”になります。

ここでは、注文住宅で必ず押さえるべき弱電設計の考え方を、実務目線で丁寧に解説します。

ネット回線が強い注文住宅、弱い注文住宅ってある?

実は「ネット回線が強い家」と「弱い家」には、明確な違いがあります。

どちらも同じ光回線を契約していても、建物の設計・配線計画・機器配置のわずかな差で通信品質が大きく変わるのです。とくに注文住宅では、間取りの自由度が高いぶん、ネット環境の設計を後回しにしてしまうと、電波が届かない部屋ができたり、回線速度が半減したりするケースもあります。

「ネット回線が強い注文住宅」とは、回線の入り口から家中のWi-Fi環境までを一体的に考えた家のこと。反対に「弱い注文住宅」は、完成後に「とりあえずルーターを置く場所」を探すような、後付けのネット設計しかされていない家です。

つまり、通信性能は契約業者よりも、設計段階での配線・機器・構造の工夫で決まるのです。

次の章から、どうすればネット回線が強い注文住宅ができるのか、仕組みを解説していきます。

【屋外からの光引込計画】引込位置と配管

屋外から宅内へ光を引き込む“入口”の設計を間違えると、屋内のどこにルータを置いても弱い、という根本的な問題が起きます。外構と同時に、引込位置と配管仕様を固めます。

引込位置は“弱電盤の近傍+保守性”で決める

電力メーター付近にまとめたくなりますが、最優先は宅内弱電盤に最短で到達できる位置です。

屋外からはPF管(もしくはCD管)を使い、曲がりは少なく、将来の入れ替えがしやすい経路を確保します。雨掛かりを避け、足場なしで作業できる高さにすることで、故障時の復旧がスムーズになります。

予備配管と引張紐は“将来工事の保険”

光が一芯で入るだけと思いがちですが、後年に別事業者へ乗り換える可能性もあります。空き配管と引張紐を1本余らせておくと、壁や天井を壊さずに回線の追加・更新ができます。

【弱電盤・ONU・ルータの配置】宅内の心臓部

最も多い失敗が「収納内にONUやルータを押し込んで電波が死ぬ」パターンです。

機器の発熱・電波・保守性を踏まえた置き場設計が、体感速度を左右します。

弱電盤は“中心・換気・電源・作業スペース”

住戸の幾何学中心に近い場所へ情報分電盤(パネル)を配置し、100V電源・アース・換気(熱こもり対策)を用意します。点検時に人が正面に立てる奥行きを確保し、ONU(光回線終端装置)/ホームゲートウェイ/ルータ/スイッチ/NASが収まる寸法計画にします。

ルータは“金物・水回り・密閉”を避ける

電波を出す機器を金属扉の中や分厚い壁内に入れると、RSSI(受信強度)が落ちます。Wi-Fi主体にするなら、ルータは開放的な位置か、のち述べる天井AP方式を選び、ルータは配下制御に回すのが賢明です。

【有線LANの設計】Cat6Aを標準に、要所はPoE

“Wi-Fiだけ”の家は、同時接続が増えるほど不安定になりがちです。固定機器は有線、移動機器はWi-Fiという役割分担が、快適さと将来性を両立します。

規格はCat6Aを基準、配線は星形トポロジ

10Gbpsまで視野に入るCat6A(シールド推奨)を標準にし、弱電盤から各情報コンセントへスター配線で敷設します。テレビ背面、ワークスペース、ゲーミング/クリエイティブ用途、NAS設置予定地には必ず1〜2口。各階の天井AP予定位置にもLAN+PoE給電を準備しておくと、後からの機器追加が容易です。

壁の中は“曲げR・本数・識別”を管理

LANケーブルは曲げ半径に敏感です。鋭角な曲げやステープル打ち込みは性能劣化の原因になります。配線色分け・ラベル・配線表を初期から作り、将来の増設に備えます。

【Wi-Fi設計】メッシュか天井APか

間取りが広がり、部屋を仕切る素材が変わるほど、Wi-Fiは設計の影響を強く受けます。電波の地図(ヒートマップ)を頭に描きながら、方式を選びます。

メッシュWi-Fiは“簡単・柔軟”、ただし帯域は共有

市販メッシュは設置が容易で、戸建て全体を覆いやすい反面、ワイヤレスバックホールでは中継ごとに帯域が目減りします。弱電盤から有線バックホールで各メッシュ子機へLANを引けるなら、性能は大幅に向上します。

天井AP方式は“業務グレードの安定感”

各階の天井に**PoE対応のアクセスポイント(Wi-Fi6E/7対応)**を設置し、弱電盤のPoEスイッチで一括給電・制御します。壁・扉・家具の影響を受けにくく、ローミングも滑らかです。家族の台数が多い、テレワークやオンライン授業が重なる、といった負荷でも安定します。

【どの回線を選ぶ?】フレッツ光/光コラボ/NURO/auひかりとIPv6

“最高速度○Gbps”の文字だけでは体感は語れません。エリア対応・宅内設備・IPv6 IPoEの三点で比較し、工期と費用を見通します。

共通基盤型と独自回線型

フレッツ光/光コラボはNTTの網を共用するため提供エリアが広く、事業者乗換が柔軟です。NURO光/auひかり(独自網)は局所的に高速・低遅延が期待できる一方、引込条件や工期に差があります。新築は引込可否の事前照会を設計初期に行うのが鉄則です。

IPv6 IPoE(v6プラス等)は“混雑回避の第一条件”

夜間の混雑はPPPoEで起きやすく、IPv6 IPoE(v6プラス、OCNバーチャルコネクト等)対応プランと対応ルータの組み合わせが、体感の平準化に効きます。固定IPやVPN要件がある場合は、回線とルータの対応を事前に精査します。

スマートホームと映像系を“通信設計”に織り込む

スマート家電、見守りカメラ、ドアホン、太陽光・蓄電池、EV充電…家の機器は増え続けます。電源・LAN・Wi-Fi・PoEの設計を先回りすれば、配線のやり直しを避けられます。

カメラ・AP・インターホンはPoEで一元化

屋外カメラや天井AP、業務用ドアホンはPoE(一本のLANで電源供給)が相性抜群です。屋外は防水ボックスとサージ対策を併用し、弱電盤で給電管理します。

マルチメディア配線の“分岐点”を決める

テレビ系(地デジ/BS/CS/分配器)、電話(ひかり電話)、インターホン、セキュリティの分岐位置を弱電盤に集約し、将来の機器交換を簡単にします。

予備回線・停電対策・保守

在宅ワークや配信、レッスン用途がある家は、切れない設計が価値になります。メインが止まった瞬間の代替策まで一気通貫で考えます。

予備回線は“系統の違うものを”

モバイル回線(5Gホームルータやテザリング)をWANフェイルオーバーとしてルータに登録すれば、主回線断でも自動で切替可能です。メインが独自網なら、サブはフレッツ系、という具合に異系統を選びます。

停電時は“ONUとルータをUPSで生かす”

数十分の停電でも、ONU/ルータ/PoEスイッチを小型UPSで支えれば、モバイル回線と合わせて最低限の通信を確保できます。機器の発熱と換気も忘れずに。

工程とスケジュール

建築工程と通信工事は歩調を合わせる必要があります。決定の遅れは、引き渡し直前の“開通待ち”につながります。

設計初期

引込位置・弱電盤位置・配管径・予備配管の本数を確定。回線事業者の提供可否調査を依頼します。

上棟〜石膏ボード前

屋内LAN・同軸・電話・センサー線を配線。天井AP予定位置のボード開口とLAN端子の高さを確定し、試験通線を行います。

竣工前〜引渡し

ONU設置、ルータ設定、Wi-Fiチューニング、速度・遅延の計測と、家族アカウントの設定を済ませます。配線図とSSID・パスの引渡しドキュメントを作成します。

よくある失敗とその対応策

完成後の“速度が出ない”は、設計段階の小さな見落としが原因であることがほとんどです。現場で起きやすい典型例を、設計で潰します。

機器を収納に押し込み、電波が届かない

金属扉収納や分電盤内にWi-Fiを入れると、減衰で電波が痩せます。無線は開放、もしくは天井APで。

LANが足りずに無線だらけになる

テレビ裏やデスクにLANがないと、帯域を食う固定機器までWi-Fiに乗り、全体が重くなります。Cat6Aを要所に敷設して負荷分散します。

引込配管が細く、将来回線を変えられない

細径や急カーブは再通線が困難です。PF管径と曲げRに余裕を持たせ、空き管と引張紐を残しておきます。

まとめ|通信に強い家は、暮らしが強い

ネットが速い家は、仕事・学習・娯楽のすべてがストレスなく回ります。注文住宅では、引込位置→弱電盤→有線LAN→Wi-Fi→回線選定→予備回線をひとつの設計として結び、図面に落とし込みましょう。

配線図と機器表を残せば、10年後の機器更新も怖くありません。家そのものの価値は、通信の設計で大きく変わります。